近年の高度情報化された都市環境下では、ストレス状態の現代人が増加し、その健康障害が問題になっています。
「キラーストレス」という言葉が象徴するように、これまで漠然と“体に悪い”と語られてきたストレスが、私たちの命を奪う可能性があることが最先端の研究によって具体的に明らかになってきており、過度のストレスが原因で脳細胞や血管の破壊、さらに脳出血や心不全に至ってしまうことも問題視されています。
このような環境下で人々は精神的な安らぎ(リラックス)を求める傾向にあり、自然に触れ親しむことでストレス解消しようと考える人が年々増えているように思います。
林野庁が“森林浴”という言葉を打ち出して以降、“森林浴”はリラックス効果の高い健康法の一つとして注目されてきました。
森林浴が体に良いといわれる最大の理由は、「空気」にあると言われています。
森林の空気には樹木から発散された「フィトンチッド(phytoncide)」という揮発性物質が漂っており、そのフィトンチッドを体内に取り入れることによって健康効果をもたらすと考えられています。
そこで、この記事では森林浴成分として注目を集めだしたフィトンチッドについて、詳しく紹介していこうと思います。
フィトンチッドとは?
フィトンチッドとは、森林の植物、主に樹木が自ら作り出して発散する揮発性物質です。主な成分はテルペン類と呼ばれる有機化合物で人の目には見えません。
1930年頃、ロシア(旧ソ連)の科学者B.P.トーキン博士がこの植物が持つ不思議な力を発見しフィトン(植物が)チッド(殺菌する)と名付けました。
土に根差して生きる樹木は外敵(害虫や病原菌など)から逃げる手段を持ちません。だから、フィトンチッドを放出して自分の周りの環境を強制的に浄化し、過ごしやすい環境に整えていると言われています。
人間も含めすべての生物は生存するために様々な能力を身につけています。
フィトンチッドも植物が身につけた生きるための能力の1つです。樹木にとっては、自分の身を守るためのバリアのようなもので、まさに生命の神秘といえます。
近年の研究では、このフィトンチッドこそが、誰の力も借りることなく樹木が何百年、いや何千年と生き続ける生命力の源だと考えられるようになりました。
フィトンチッドの4つの特徴
フィトンチッドには、健康へ期待できる効果も確認されています。
代表的なものは、
- 消臭
- 除菌・抗菌
- リラックス効果
- 抗酸化
です。
フィトンチッドの効果について紹介します。
①消臭
フィトンチッドの効果として代表的なものが消臭効果です。
森林内には悪臭の原因となる動物の死骸や腐敗した植物などがたくさんあるにもかかわらず、さわやかな空気が広がっています。これはフィトンチッドのもつ消臭効果が発揮されているからです。
フィトンチッドの消臭作用は「分解中和消臭」と呼ばれる作用で、悪臭成分に付着し無害化、まったく別の成分に変えてしまいます。
フィトンチッドが悪臭成分に付着し無害化したあとには、アミノ酸類が生成されされます。アミノ酸は植物が生きていくために必要な栄養分です。
このことから、植物はフィトンチッドを放出することで、動物のフンや死骸から出る悪臭を、自らが必要な栄養分に変えているのではないかと考える研究もあります。
有害なものを無害化したうえ、自らの栄養分とする。
まさに生きるための自然の神秘の力が垣間見れます!
②除菌・抗菌
フィトンチッドには抗菌作用があると言われています。植物が自らの身を様々な菌から守るために排出しているのがフィトンチッドだという研究です。
菌と一言で言っても、健康に悪影響を与える病原菌もあれば、生きていくために必要不可欠な常在菌、善玉菌などの非病原菌もあります。
フィトンチッドの抗菌作用は、病原菌である大腸菌や黄色ブドウ球菌などに強く作用します。その反面、非病原菌への作用は緩やかであり、必要なものは殺さないようにできています。
これも樹木にとって有害なものを選別して作用するために発達した、自然の力です。
③リラックス
「森林浴」という言葉を最近よく聞くようになりました。森の緑の中で都会とは違う空気に触れ、日頃のストレスを発散させようという試みです。
森林浴をおこなうことで、ストレスに対する値が減少したとのデータも出ています。森林浴によって人体にリラックス効果があると証明されたのです。
このリラックス効果の元となる物質がフィトンチッドであると言われています。農林水産省が行った実験ではフィトンチッドを体内に取り入れることで、「ストレスホルモンの減少」「血圧・心拍数の低下」や「免疫力の上昇」「抗がんタンパク質の増加」も認められました。
医療先進国であるドイツでは、森林浴が医療行為として行われ、健康保険が適用されるなど様々な効果が期待されています。
④抗酸化
フィトンチッドには抗酸化能力もあると言われています。
抗酸化能力とは「酸化を防ぐ力」です。「鉄が錆びる」「物が腐る」は酸化によるものです。人体の老化現象も酸化によっておこると言われており、美容業界でも抗酸化作用は注目されています。
例えば、お寿司屋さんでお寿司を乗せる飯台には「檜(ヒノキ)」が使われています。ネタケースには「椹(サワラ)」の葉が敷かれ、「柿」の葉でくるんだ“柿の葉寿司”などもあります。
これは腐りやすい生もの(魚)をできるだけ長く新鮮に保つために、植物の持つ抗酸化力を活かした先人の知恵だと言えます。
長年の経験から培われた生活の知恵が近年では科学的な視点で見直され、様々な分野で役立てられています。
まとめ
フィトンチッドは薬品ではありませんし、病気を直すものでもありません。しかし、普段からフィトンチッドを活かした生活をすることによって、ストレスやアレルギーを緩和したり、免疫力を高めたりと体にプラスに働く生活を送ることは可能です。
まずは、身の回りの空気を綺麗にしてみることが快適な生活を送る第一歩かもしれません。
そのために、植物のもつ力や、自然の力を生かすことも考えてみてください。