菌と聞くと皆さんは何を想像されますか?
たいていの人がいわゆるバイ菌、つまり「病原菌」を思い浮かべるのではないでしょうか?
食中毒の原因菌として知られる「病原性大腸菌O-157」や、病院内で院内感染がおこるとニュースでも大きく取り上げられる「MRSA」などは聞いたことがあるでしょう。
どちらも人を死に至らしめる事もある毒性の強い病原菌です。
そういった事からか世間的に「菌=悪者」というイメージが根付いているように思います。
しかし果たして本当に菌は悪者でしょうか?
少し詳しく調べてみます。
菌の種類
菌には大きく分けてキノコやカビに代表される「真菌類」と、病原菌を含めたバクテリアを表す「細菌類」に分かれます。
しかし、菌と聞くと「細菌類」をイメージする人が多いと思います。
人の目に見えない「細菌類」は現在知られているだけでも約7,000種、実際には数万種から数十万種あると考えられています。
しかしその中で人の病原菌として知られているのはおよそ50種程度です。
意外な少なさですね。
キノコを例にしてみるとわかりやすいかもしれません。
シイタケやマツタケ、エリンギなど皆さんの食卓に並び、食べて健康に良いとされるキノコはたくさんありますよね。しかし、一方では食べると命の危険もあるようないわゆる「毒キノコ」もあります。
細菌も同じく体に良いものと悪いものがあるわけです。
しかし目に見えないほど小さいので、キノコのように良いものだけを選んで体に取り入れることが困難です。 意図せず毒性のある病原菌を取り込んでしまうことがあります。
そうすると多くの人が体調を崩し、テレビのニュースで取り上げられ、結果、菌=悪者 となっているのではないでしょうか。
しかし、世間の「菌=悪者」の風潮に警鐘を鳴らす研究者も少なくありません。
いわゆる“キレイキレイ”指向が常識化され細菌皆殺しの薬品を使って人体に害のない菌 ”常在菌” も含めて殺してしまうことで、「病原菌」にかかりやすい環境を自ら作り出していると考えられています。
常在菌とは
人の身体には目に見えない多くの細菌が常在しており、私たちは知らず知らずそれらの細菌と共生しています。皮膚の表面をはじめ口腔内、腸内などに存在します。
腸内細菌は特に多くその総数は100兆個、重さにして1.5kgにもなると言われています。人の細胞の数が約60兆個と言われていますのでそれより多いのです。 それらの菌は人によって様々な組み合わせで存在しており、多くは病原性を示さない細菌です。腸内細菌のバランスが健康に及ぼす影響が近年非常に注目されており、腸内に体に良いとされるいわゆる善玉菌を増やすことで生活習慣病の予防やアレルギー症状の緩和などに影響することもわかってきています。
腸内で色々な種類の菌がまるでお花畑のように住処をつくって存在していることから、この菌のバランスの事を『腸内フローラ(菌叢)』と呼びます。 (flora[英]=お花畑)
『腸内フローラ』ではそれぞれの菌がなわばりを持ち、テリトリーを持って存在しているので、テリトリーに入ってきた他の菌を除外しようとします。それが結果的に病原菌などを防ぐバリアになっているわけです。
しかし、抗生剤や化学薬品をむやみに使いすぎる“超清潔志向”がフローラ(菌叢)のバランスを欠いてしまい結果、病原菌に侵されやすくなったり、抵抗力が弱ってしまうことに繋がります。
皮膚の表面にしても同じです。
殺菌・消毒剤を使っての過度な手洗いで皮膚表面の常在菌を皆殺しにしてしまうことで、病原菌への抵抗力が弱まり、アトピーや皮膚疾患の原因になるのではないかと考える専門家もいます。
選別能除菌
自然の力は実にバランスよく作られています。
森の空気に含まれる「フィトンチッド」は森の微生物を皆殺しにしないように、有害微生物のみを排除する「選別能除菌」を行うことが知られています。
これは動物のように自由に移動できない植物の生態系が、長い進化の過程で獲得した特有のシステムだと考えられています。
まとめ
私たちは目に見えないから気づきにくいですが、実は数多くの“菌”と暮らしていることがわかっていただけたかと思います。
もちろん人体に有害な“病原菌”を排除することは健康のためには必要です。
しかし私たちと共生している“常在菌”の活躍も健康を維持するためには重要であることを知っていただけたかと思います。
すべての菌を悪者扱いして排除してしまうことなく、バランス良く菌と生活する事こそが健康への近道なのではないでしょうか?
ー参考資料ー アポロニア21 06.03 『森林浴と健康ーフィトンチッドの多様性を活かす』 より一部抜粋
●谷田貝光克(東京大学大学院教授:森林科学、天然有機物化学)
●小橋恭一(富山医科薬科大学名誉教授:生化学、腸内細菌学)
●駒井正(宝塚市市民安全部次長)